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憧れの北又谷へ

 お盆の沢合宿で北又谷を遡行した。この沢は日本屈指の美渓ということで名高く、また5級という難易度も相まって沢登りの憧れの対象とされる。私にとっても長年の憧れであり目標であるこの沢を、沢登りをはじめて 10 年が経つ節目の年に無事に遡行できた。完徹できたのは、好天・穏やかな水量・頼れるメンバーと、すべての条件が揃っていたからだ。その充実した山行を写真とともに振り返る。

 小川温泉元湯からタクシーで越道峠へ。この峠には北又谷の核心部である大淵釜で亡くなった法政大学山岳部の慰霊碑があり、改めて気を引き締めて出発する。北又谷へはまず越道峠から初雪山に至る尾根のコルまで歩き、そこから沢筋を下って魚止滝手前で合流する。コルまでは地図に載っていない作業道があり、ロープも設置しており、よく整備されている。降りる沢筋も多少の藪漕ぎと倒木が煩いが、懸垂下降を必要とせず1時間ほどで下降できた。北又谷に合流したとき、その美しい景色に息を呑まされた。ずっと恋焦がれていた場所に遂にきたのだ。流れは予想通り穏やかだ。事前に黒薙川の水位を観察していたが、75 センチで平水だった(これが 1m を超えると遡行困難だそうだ)。興奮冷めやらぬ中、ウェットスーツを着込んで入渓する。

 歩き始めて早速、核心部の一つである魚止滝に到着。平水とはいえ、もの凄い水量だ。通常ここは滝と同じ高さまで上がり、トラバースして通過するが、事前情報にない残置ロープが垂れていた。「これを使ってごぼうで上がれば良いのでは」と考え、もんさんが空身でトライ。だが、圧倒的な水量と滑った岩に苦戦し、中々這い上がれない。登高器と簡易アブミで身体を持ち上げて何とか登りきった。続いて私が挑んだが、ザックを背負うとさらに厳しく、相当に消耗してしまった。その後、荷上げをして UTi さんは定石通りトラバースであっさり通過。残置に頼るという甘い心に北又谷から洗礼を受けた格好である。

 次の核心部は大淵釜である。洗濯機のように渦を巻いており、巻き込まれたら溺れてしまう恐るべき場所だ。と思っていたら、もんさんが流れに身を任せて岩に取付き簡単に超える。続いて私がロープを装着して空身で泳いで岩に取付く。記録によっては泳ぎに苦労して取り付けなかったようだが、今回はあっさり通過。やはり水量が少ないようだ。

 続いて第3の核心部の又右衛門滝。クライミングシューズでないと困難という記録があったので、直登は難しいと思っていたが、もんさんと UTi さんが果敢に挑戦。それでも流石に厳しく、大人しく左岸を巻いた。薄い踏み跡があり、残置スリングがある木から懸垂下降で沢に復帰。1時間程度で巻くことができた。

 さて、本日の核心部は通過したものの、北又谷自体はミズカミ沢出合までのゴルジュが全体の核心であり、ここからは泳ぎとへつりを駆使して突破していく必要がある。一方で北又谷のハイライトでもあり、日本屈指の美渓の呼び声に相応しい素晴らしい渓相を堪能する。予定通り 15 時過ぎにミズカミ沢出合に到着し、焚火を楽しんで就寝。

 2日目も快晴で朝日が差し込んだ沢が美しく映える。この日も2回ほど高巻きを強いられるが順調に進み、10 時半には黒岩谷出合に到着する。

 ここまで来ると沢は幾分穏やかになり、そこかしこに魚影が表れている。14 時くらいに吹沢谷に入って少し進んだ河原で行動を終了し、のんびり焚火を楽しむ。この辺りは薪も豊富で泊まれる場所が点在していた。

 3日目は吹沢谷右俣から稜線に詰め上がる。途中、ザイルが必要な 5m 滝があったが、それ以外は簡単だった。沢通しで忠実に進むことでほとんど藪漕ぎなく北又乗越に到着できた。

 北又乗越からは越道峠から初雪山まで延びる作業道で下山する。だが、蓄積した疲労に暑さも相まって下山にとても苦労する。加えて地面に生息するクロスズメバチに襲撃を受ける。不幸中の幸いで1箇所ずつ刺されるだけで済んだが、初めての蜂の被害に寒気がした。全員ヘトヘトになりつつ越道峠に 14 時過ぎに下山。無事に完徹しホッと胸をなでおろした。

 沢登りはリスクが付き物である。実際、私に沢登りを教えてくれた先輩は沢で亡くなった。それゆえ、どこまで困難な沢を目指すかというのは常々考えており、自分の中の1つの最終目標に北又谷があった。今回の旅で自分の中で一区切りを付けることができたことは喜ばしく、ここまで続けてきて良かったなと、夕日が照らす日本海を見ながら物思いに耽っていた。

 帰り道では安曇野花火大会の花火がちょうど車の上で綺麗に空を照らしていた。我々の完徹を祝福してくれているようだった。

コースタイム:
1日目 越道峠[6:40]~北又谷入渓[8:40]~恵振谷出合[11:00]~ミズカミ沢出合[15:40]
2日目 T.S[6:00]~黒岩谷出合 [10:40]~吹沢谷~1035m二俣手前 [13:30]
3日目 T.S[6:20]~吹沢谷右俣~北又乗越[9:30]~越道峠[14:20]

[メンバー] UTi(L)、もん、セレナ
[山行日] 2023.08.11(金) – 2023.08.13(日)

written by:セレナ
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会員は相模原・厚木エリアを中心に、
町田、横浜、大和、座間、海老名、八王子に在住し、
様々な登山ジャンルで活動している地域山岳会です。

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