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槍ヶ岳 北鎌尾根クラシック
~~THE★日記な北鎌記録~~

9月の連休に槍ヶ岳北鎌尾根を歩いてきました。
登山を始めた頃に松濤明君の「風雪のビヴァーク」を読んで、いつか行ってみたい!と思っていた、湯俣温泉から槍ヶ岳を越えて奥穂・西穂・焼岳から中ノ湯へ下るという憧れのロングルート!!

……の内、西穂までの計画で。

残念ながら連休に有給を1日付ける事しか出来なかったため、日程的に西穂で下山せざるをえず。焼岳から中ノ湯は後日繋げれば良いでしょう!ということで。

ほぼ同期の ton ちゃんと、これをやろう!と決めてからは各々体力作りに励みました。私こと imo は近所の低山に毎週末どころか、平日の出勤前に駆け登ってみたり、帰宅後 RUN は距離を伸ばしたりペースを上げたり。歩荷トレや徒渉訓練なども行い、天気予報を気にしてソワソワと落ち着きないままに出発当日を向かえました。
2019年に引き続きテーマは「先輩に頼らないアルパイン」です。
前置きも長いですが、以下も益々長いです

9月18日(金)

退勤後そのまま特急あずさに乗り、信濃大町駅前の宿に前泊。
この日の大町の(下界ではあるけど大町では18日の合計降水量は 19mm(気象庁データによる))昼間、ton ちゃんが入渓点極近くのお宿「晴嵐荘」さんに増水具合について問い合わせた所、宿の前の丸太橋は流されてしまい、かなり増水して勢いもあるとのこと。あらまぁ、参った。さてどうするね?と相談。私が信濃大町に到着したのは22時過ぎで、その段階でもシトシトと降雨有り。山手でもまだ降り続いている可能性もある。
代替案として会には北アルプス縦走プランも提出してあるが、しかし…きっぱりそちらに切り替えるには未練タラタラなので、切り替えるにしても、明日、実際どの程度の増水なのかを行って、現地で実際に見て判断しよう、それから切り替えても遅くは無いだろう、という話に落ち着いた。
夜分申し訳ないとは思いつつ、明け方に予約していたタクシーを9時発に遅らせるよう手配し、就寝。

9月19日(土)
前泊地 − 湯俣温泉 晴嵐荘泊(概ね晴れの1日)

起床してカーテンの外を覗くと、どんよりと曇り空。
全くスッキリとした天気では無いけど雨は上がっていた!宿で朝食を済ませて、予約していたタクシーに乗り込む。山に近くにつれ、段々と明るくなってきた。これは良い天気になる予感。
タクシーの運転手さんは膝を壊す前はよく山登りしていたとのことで、ひと昔前の高瀬ダム辺りの話を伺いながらダムの端に到着。
初っ端は長いトンネル歩き。
明け方ここ歩くの1人だったら怖いなぁ。
トンネルを出ると、エメラルドグリーンに白絵具を混ぜた色。

 

乳白緑色(なんて言うのが正解なんだ…?)高瀬ダム、とても綺麗!推せる!今日は様子見なので焦らず!と景色を堪能しながら整備された道を歩き進む。地層の見える河原を歩き、高瀬ダムの端から約3時間経つ頃になると宿が見えてきました。

宿へのアクセスは徒渉必須(橋が無いので)。
サンダルに履き替えて、いざ川の中へ。冷たいのかと思っていた水の温度はそんなにでも無いし、進めないほどの勢いでも深さでも無い。これは…これは大丈夫そう?かも?と思いつつチェックインを済ませ、湯俣川に沿って伊藤新道の方へ行ける所まで行ってみようぜと出かける。


落ちそうなボロボロ橋を渡り流れの緩やかな川に足を突っ込んでみると…おお、川の水が温かい!
掘ってお風呂作ったな?な箇所もありました。温かったり熱かったりして迂闊に手を突っ込めませんが。
高瀬渓谷では噴湯丘と球状石灰石という国の天然記念物見学!キャッキャ!と完全に観光モード。
しかし……噴湯丘の側にいくには徒渉が必須。

 

しかも、下流のぬくぬく&ゆるやかな流れに比べて、渡れそうな箇所では流れが強い上に腰徒渉!何箇所か良い所を探して上流下流を行ったり来たりして、比較的何とかなりそうな所を渡ってみたものの、手強い。今日はシビアな徒渉はしないはず…と気が緩んでいたのに、ここでまさかの。何とか無事に這い渡って、牡蠣殻のような岩?や湧き出す黒い液体を眺め、謎の岩を乗り越えようとしてドボンしたりと存分に遊んで、「あ、そういえば」と漸く明日の朝イチ徒渉することになる水俣川の取付きを確認に向かう。
(これこそ「わぁ噴湯丘~!お湯が湧き出てる!熱っ!!」とかワイワイする前に済ませておくべきのヤツ~!!)

あれ、こちらはかなり水温低いぞ?
足はすぐにキンキンに冷えて痛い位に。水の勢いもかなり急。

 

おそらく、明日はボロボロ吊り橋を渡りきってから即1発目の徒渉となるようだけど、いかんせん水量が多い。橋を渡らず手前からへつってみてはどうかと試してみるもののなかなかに難儀。日差しの出ている真っ昼間なのにこれかぁ…手強いなぁ。
ふと見ると、川の中間部にある石が沈んだり頭を出したりしているので、明日の朝どの程度水位の変化があるか目印にしようと思い、下半身を冷やし切って宿に戻りました。翌朝すぐここを徒渉するのか…緊張するなぁと思うのと、予定より下半身に1枚増やして冷え対策をすることにして、明日への脳内対策会議を終える。

宿で少し昼寝をし、お待ちかねのスパイスカレーや美味しいサイドメニュー、デザートまでペロリと頂き、快適に就寝(ありがたい事に個室!)。こうして18日、19日にしっかり休息していたお陰で後の日程を頑張れたのだなあと思います。寝るは最高の回復薬!

9月20日(日)晴れ
晴嵐荘発 − 徒渉 − P2 ピークへの取付 − P4 手前の名無しピーク
(P8 か独標付近まで伸ばしたかったが…無念!)

晴嵐荘で朝ご飯をしっかりと頂き、元気いっぱいに出発!
下半身装備はファイントラックの沢用メッシュ、家にあった軽い短パン、レインウェアにモンベル沢用ネオプレンのスパッツにフェルトの沢靴。そしてストック1本。無理はしない、危ないと感じたら撤退もやむなし!と思いながら、いざ水俣川!

有難い事に、水量・勢いともに前日昼間より落ち着いており、昨日目印にした岩も頭の部分が浸かる事なく覗いている。一度目の徒渉を終えてみて「これは行けそう」と思う。…ただし、冷たい!!
事前に調べておいた先行者達の記録には、15回~17回の徒渉などの記載がありましたが、正確に数えていないものの10回も渡っていません(内1回は私の判断ミスで不要な徒渉)。勢い有り且つ、やたら深い所ばかりで渡ろうにも渡れませんでした。

 

道中、昨日宿までの道すがらお会いした男女5人パーティがロープ徒渉している。聞けば撤退とのこと。トレランシューズでは流石にこの徒渉は怖かろう…どうぞ気をつけてと交わしあって、へつったり大きな岩を越えたりしながら進む。中東沢の出合では大岩ゴロゴロ、凄い量が崩れて流されて滞留している。やっと高度 1484m。

ジャブジャブ進んでいると、時々魚影が見えたりする。
正直、そんなもん眺めている余裕は無いだろうと思っていたけど、意外にも徒渉パートの8割は大丈夫だった。残り2割はド緊張でしたが。

どうにも効きの悪いツルツル箇所のへつりでは、「左足をそこに効かせたい、そこでなければ(失敗して落ちたら激流&どう見ても深い)な!」という箇所に効かせられず難儀。2センチ弱位のそのツルツルスペースに乗り込んで抜けたい、が、1人では危う過ぎて ton ちゃんにフォローしてもらってギリギリで落ちずに突破。
更に、もう一箇所、腰徒渉でかなり流れの強い箇所でもフォロー頂く。通常より重い荷物でもそんなのお構い無しの水流、油断したらヒョッと流されてしまいますね。

 

また、千天出合手前の右岸大高巻きが岩も土も草付きもビショ濡れていて、グズグズで緊張しました(有難い箇所に元ロープらしき紐はあるけど、中の繊維が見えて解れているようなものに当然頼れず)。この山行の出発直前にチェーンスパイクをザックに押し込んでいて良かった…。滑る土と草によく効いてくれました。


出合から天上沢に入ってからはほぼ巻き、旧登山道の朽ちて壊れた道標もある。沢は勢いも益々増して、深くて大きな瀞と大岩が見える。凄い絵になる景色…良い。大岩の箇所は以前は両門だったのかな?今は右岸側だけから豪快に流れている。左岸側には大きな石がドン詰まっている。覗き込んで見ると、下はベーコンエピ状に左右から段々と流れ落ちる元気な水流。

ここ、冬はどうなるんだろう?
凍るのか積もるのか…松濤君はどうやってササっと抜けて行ったんだろう?
さらに巻きつつ進み、ばらけた古いワイヤーが見つかったら、そこが P2 への出発点&沢徒渉パートの終わり!
第一関門突破やね!と装備を陸仕様に変更しつつ、ここが槍ヶ岳山荘に着くまでの最後の水場となるので、ton ちゃん 5.5L(この日の行動用は別途)、私 4L(この他、当日用に 600ml を満タンにし、他お湯 500ml の計 1L 有)を積む。濡れた沢装備に水、重い。

 

ざっくり計算になるけども、4泊5日のテン泊装備で水分無しで 13.8kg だったので、そこに上記の水、更に脱水機にかけて 780g の沢靴を手絞り+沢用靴下……おお、これは足し算をしたく無い重さだ。

さて!いざ P2 へ。
木登りとは聞いていたけど、見事に木の枝と根っこ登りが続く。
最初こそ「急登だな~!」程度でしたが、取付きから10分後には「落ちたら一大事では…」というる箇所が多発してくる。重いザックに体も引かれるので気を抜けない。高度 1850~1900 付近ではボロボロの岩に悩まされる。先行する ton ちゃんが、右手にある岩にほんの少し触れただけで、一抱えはある岩がズルズルっと滑り落ち、私の横をボスン!と勢いよく落ちていった。
この岩、絶妙なバランスで木の根に引っ掛かっていただけの模様。むせる程の埃が上がり、相当重い石だったと分かる。フォールラインを避けようと意識していたので、大事には至らなかったけど、改めて気を付けようと思った。意外にルートファインディングに手間取りつつも、P2に到着。
ついに尾根に出た! P2 は綺麗で広く、平なビバークポイントでした。古いポリタンクや新しめの残置水筒達を横目に少し休憩する。


18日の雨の影響がどの程度残っているものか分からないけど、20日、21日は滑る草と泥に悩まされました。少し足を滑らせたらかなり危険、と思われる箇所ではロープを出した。空身で登った ton ちゃんが荷揚げに奮闘したり、途中どう抜けるか悩ましい箇所では地形図と GPS を何度も何度も確認して進むなどした。その為、予想外に進行に時間がかかってしまったのでした。

P2 から P3 間も藪に藪。枝をかき分け踏み跡らしきものを探りながら、急なアップダウンの繰り返し。綺麗にトレースがある箇所もあれば、かき分けてみても「藪!」という箇所も度々出てくる。
どうも歩いてみた感じ、P7 辺りまでは下りが悪いような気が…。
急であることはもとより、崩れやすかったり細かな落石が多数しており、いつも以上に気を遣う。
背中の荷物はどこかで子泣き爺にすげ替えられでもしたのか、段々と重みを増していく気がするし。「ガンバがんば!」と吐き出しながら進むものの、残念ながら日暮れはやってきてしまい、2330m 辺りに1張りできそうな場所を見つけてビバークすることに。テントを張り終えたらすぐにご飯。ご飯のあとは驚くほどの速さで爆睡。うっかり歯磨きを忘れる(Oh …不衛生…)。

え?「風雪の~」によると、松濤君は湯俣まで 33.7kg を背負って?
湯俣から P2 までは 26kg? 26kg 担いで分厚いコート羽織った昭和の重たい冬装備で膝ラッセル、それで P2 まで1時間半…?まじすか??体、どうなってるんだ…?

9月21日(月)晴れ
P4 手前の名無しピーク – 北鎌のコル – 独標(独標すぐ脇に出たけどそのまま先へ進む) – P12 の端


良い天気だ、ガツガツ進もう!(という気持ちで出発)
朝から激下って登り返し P4 を越え、P5 は岩壁をぐるりと巻いて行く。
巻いた先を草付きルンゼ状からコルへ登り、そのまま P6 に抜けて行くのが一番労力を使わないルートの模様。
膝丈の草の中に踏み跡がある…ような気がするが、果たしてそこだろうか?確かにその先の岩は登れそう。でも登れはするけど、その先少々シビアが過ぎません…?と思ってしまい、思ったまま黙っていられる質ではないので、ton ちゃんそこはどうだろうか?と問いかけ、もう少し安全に上がれる箇所を探そう、と提案。

踏み跡ばかりに目を向けるのも違うとは思う。
自分らで歩けるなら歩ける所を歩けばいいので。
しかし、そう思いはするものの、いやそれにしてもそこはどうかな?そんなクライミングテク要する?ここで??(この荷物でその先で進退窮まったら下りられるかな??)…という疑問は率直に伝える。

行けば行けそうな箇所はいくらでもあるけど、それ以上に危険箇所も混じっているし、とにかく草付きはぬかるんだ泥がズルズル滑る!安定した箇所を確保してパパっとチェーンスパイクを装着。バイルも活用して、それらしいルンゼ方向へトラバースしてコルへ抜ける。
う~んヌメる。

 

いくら平泳ぎ体勢で藪を泳ぐように掻きわけてもかき分けても……その先も藪。
藪からの埃の舞い上がりも凄い。
あまり良いペースとは言えないが、北鎌沢から上がってきた方達と合流するコルから先は、今までに比べて多くの人が入っているはずだから、きっと楽に歩けるようになるに違いない!と思って漕いだ。ton ちゃんのヘルメットの中はツガの葉がい~っぱい入り込んでいた。どうしてそうなった。

ルートを見つつ、あっちか?こっちかな?と下ると、綺麗なテン場状になったコルに出た。その周りは存分にトイレ活用されているらしく臭い上にティッシュペーパーが散乱しているなど、目に余るものがあった、が、とりあえずここが北鎌沢から上がって来た方達との合流点。ここで少し長めに休憩したのだけど、日差しに当たり過ぎたのか、座って休んだにもかかわらず、再び動き出してからしばらくの間体が重くてしんどかった。疲労ですね…。

北鎌のコル以降は歩きやすい道になるのかと思って、そんな期待を多少していたのですが、それほどではありませんでした。というのも、目の前に覆いかぶさるような藪漕ぎは無くなったし、仰け反るほどに腹を押し返してくる笹薮もなくなったのだけど、代わりにやたらと迷い道が増え、下って行く巻き道(迷い)が多くなったなぁと。ちょっと間違ったな?と思うと余計な体力を奪われる事になるなぁという印象。

這松の太めの幹や枝は人為的に切られて「登山道」が作られている。切られているのは大体人差し指と親指でわっか作った時のサイズ位の木。ガイドさんでしょうかねぇ?はて。

進み行く内に段々と植物が減り、ガレ場続きになり、ふと、「なんやここ、上の岩邪魔だな~」と腰をかがめてほぼ四つん這いの体勢で通り抜けた箇所があった。先行していた ton ちゃんが振り返り、北鎌レポで良く見かける「コの字型」だ!と言う。右手下を見れば確かに多少の高度感はあるけど、切れ落ちてる!!という程でも無い。ネット上で情報を漁ると、コの字型コの字型、とやたら取り上げられているのを不思議に感じました。もっと怖いなと思う箇所はいくらでもあろうに、と。

独標はピークを踏みに行くと益々体力を奪われそうなので、巻いて先に進もうと話していたはずなのに、綺麗目な残置スリングを見つけてしまった箇所あたりで、ふと見上げると、あれ?結局これを登ると独標のすぐ真横に出るだけでは…という事に気付く。ここで、凹角を登き切った上部での体勢の入れ替えが上手く行かず、滑ったら落ちるので念のためお助け紐を貰う。スリング1本で本当にほっとする。フォローありがとう!

さてさて、あの岩この岩…続くよ岩。

 

何度も小ピークを越したり巻いたりしている内に結構な時間を費やしており、時刻は15時に。
この時点で本日中に到着したいと思っていた P15 付近まで伸ばす事は困難であると判断。以後の行動は1時間以内とする!と決め、良い BP を見つけ次第テントを張ろうと話合い進む。道中、ツェルト一つ位なら張れそうな箇所が2箇所ほど出てきた。しかし、2テンを張るには少々手狭。
ここをスルーして進んでみて良い所があるかどうか…時計を見つつ悩みつつ進んで行くと、P12 の端に適度な広さを発見。少しばかり斜めではあるものの石垣状の岩で風を避けられそうでもある。幸いまだ日が出ており、今なら濡れた沢靴を多少でも乾かせる!?と21日の BP はここに決まった。
疲れた~と荷物を下ろし、沢靴と朝から濡れたままだったテントを引っ張り出して乾かす。少しでも乾いて軽くなっておくれ~~と祈りつつ。

この日は良く晴れて暑さを感じ易く、しっかり水分を摂りながら歩いたので、積んできた水の残りを見ると、明日は少々心もとない量。とは言え、大槍を越してしまえば小屋があるので、半日弱の行動用と朝ごはん分があれば足りる。ギリギリが宜しく無いのは百も承知ですが、こうなっては致し方ない。フリーズドライご飯とカップ1杯のお茶で夕飯を終え、朝は水の不要な行動食と1杯温かいものを飲めれば良しとして寝仕度。
昨日は食後即爆睡してしまいましたが、今宵はちゃんと歯を磨いた。偉い。

(この夜、ton ちゃんがご飯のみで食事を終えており、あら小食ね…と思ったものの、彼はいつもそんなに食べないのであまり気にしなかった。しかし、普段はスープ等の水分も摂っていたはずなので、もう少し配慮すべきだった…。反省。)

 

夕暮れ時から夜中はビュービューと強風だったが、気温はそこまで下がらず、テントが心配な程でもなかった。明け方から出発前に少し強めに吹いたが、行動に支障は無い程度。

9月22日(火)晴れのち薄曇り
P12 の BP − 槍ヶ岳 − 南岳小屋

 

昨夕からの乾いた風のおかげでテントの結露一切無し。
背負ってみるとザックが軽い!ザックが軽いと足取りも軽い♪
今日はあわよくば穂高岳山荘まで伸ばすのだ、と気合が入る(テン場は事前予約済)。

だが、出発早々、ton ちゃんの足元が安定しない。
足置きがどうもブレている。P12 以降はガレ場アップダウンに加え、岩場をへつったり乗り越したりの動作が増えており、動き出したばかりで、まだ調子が出ていないだけかな?と思うものの、どうも着地ごとに足首がグラついている。様子を伺うと、どうやら水不足が原因の模様。
水は節約しなければという状態であるものの、枯渇しきっている!という訳ではないので、少しずつでも口に含みつつ、慎重に進んで貰う事に。昨日、北鎌を抜けきらなかったので予定外に水を消費して3日目に入ってしまうことになったので、少なかったという事は反省。


ジワジワと進み、「ここは槍の基部だ!だろ?ここだろ??」と思った箇所からが……遠かった。
手前でかなり下を巻いてしまったので。
はい、惑わされました。

 

Pいくつだっただろうか、基本は尾根通しとは思うものの、その岩を乗り越すのは…と躊躇した箇所、あの辺りに尾根に沿って歩ける箇所があったはず。今思い出してもあそこだな、と思う箇所がある。よくよく見なかった事が悔やまれますね。完全に「ここが基部!」という場所まででかなり時間をくってしまった。さて今度こそ最後のピーク!と ton ちゃんが登り出すものの、お?そっち行っちゃう?うーん?ちょっとそこ悪く無い?難易度高いぞ?という箇所が。

ここまでは、皆思い思いのルートを巻いたり直登したり、好き勝手に歩いてきたはずだけど、流石にここまで来るとある程度まとまった踏みあとになっているはず…明らかに踏んでいない所は、多分上に抜けていくのは難しいか、脆過ぎるか、切れ落ちているか…つまるところハズレかと。

私はあまり自分のクライミング力に自信が無い。ロープとハーネスがあれば(確保されていれば)ある程度思い切った動きも出来るけど、ここはその手の装備は無い上に、加えて重荷。シビレる要素のある箇所はなるべく避けたい。ton ちゃんはある程度の悪場は力業で乗り越えられてしまうし、何とか処理出来る人なので、私が「あれ?ここは違うのでは?こんなシビアな乗っ越し…あるか?」と疑問を感じる箇所でもヨッコラショと越えてしまう。

でもなぁ、北鎌を歩くのは全員がクライマーな訳ではないし、基本的には縦走者のはずで、シビアなクライミングテクを要する箇所はたいがい避けられていると思うんだよなぁ…。これは実際歩いてみて実感したことですが。だからこそ、直登ルートではなく巻き道が恐ろしい程ついているわけで…。

行けるなら行ってしまえば良いのだけど、果たしてそれが本当に危険ではないかというとなると躊躇してしまうし、躊躇する位ならより安全(と思われる)ルートを探し登るべきかなと私は思うのです。
いや、まぁ、行けるなら行ってしまえばいいのですが。
(書きながら、どっちやねん!と思わず自分で突っ込んでしまった)

ムムム?と思いつつも様子を見つつ、蟹のハサミ付近で声かけをして位置等を再確認し、おそらくこちらだろうという安全な方に抜けた。「明らかに、一番踏まれている所を選んで行こう、そこが比較的安全なはず!」と再度自分にも言い聞かせて登りだす。
しかし、またしても、これはどうも違うぞ?というルートに…。
子槍側にかなり回り込む形で登ってしまっている。こんな所で身体をこんなに出す動きあるかな?と思う箇所で、違うのではないかと声をかけたが上がってしまった後ではどうにも、良い箇所を見つけて下りるしかない訳で。

右奥側下方には小槍を登るクライマーが見える…うん、やはりこちら側では無い。右手上方にはピークへ向かうようにクラックがあり、まぁ登れなくはないと思うけど思いっきり体を外に出す形になる。15kg 位あるかな?というザック、カムも無ければハーネスも無い(ロープはあるけど)、いやーないない。左を見ると被り気味にボヨンと張り出した岩…うーん、ないない。

ここは明らかに踏まれていない……まぁハズレルートかな。
目の前には錆びた頼りないハーケンに色褪せたスリング。
この高度で体を出して確保無しに登るのは無し。
危険度の高い事はしたくないし、しないお約束。
クライマー以外がよじ登っているはずの箇所(ピーク直下のチムニーを巻くルート)があるはずだから、そちらを探そう!と提案して、一旦、良く踏まれた箇所まで懸垂下降。ボロスリングと錆ハーケンのみでは不安なので、捨て縄を岩にしっかり回して下りた。ここはかなり緊張した…。

安全に戻れる場所まで戻ってもう一度ちゃんと見よう!と残置ザック等のある付近まで戻り、よく確認しつつ上部へ進んでみると、これが最後のチムニー状という箇所が分かる(踏んで平らな道になっている)。その左側の隙間を奥まで行くと落ちる。

チムニー取付き付近に戻る手前に、おや?ここは登れそう、という箇所も見つける。左寄りに直上して、抜けた先がテラス状になっていれば更に左に回り込んで山頂へひとのぼり(祠が見える事は ton ちゃんが確認出来ていたので)じゃね?と。そう思いつつもチムニーに着いてしまったので、荷物ありフリーで登れるかな…念のためロープを出してもいいけど、と話しあいつつ、ひとまず荷物を下ろして空身で取りついてみると、乾いており全く問題なく登れそう。

しかし、ton ちゃんが朝からの不調のせいか、やや気持ちが焦り気味で落ち着かない様子にも見える。ここで、こんな所で何かあっても……と、その場で2人で検討してる間にソロ男性がチムニーを抜けていかれた。抜けた後、上から周辺の様子を見てかけてくれた言葉では、私が「そこじゃないか?」と思った箇所はどうやら違うのでは?登れそうにないよ、とのことだった。

はてそうだろうか??
触りもしてない内に無理と決めるのもなぁ、と、先程コレハと思った箇所を試してみてもいいか聞いて、行ってみようという回答を得て、触りに向かう。ほんのり垂直部分はあるけど、いざ登ってみると、多少の岩登りらしさはあるものの階段状で、上部は予想した通りだった!
ton ちゃんここだここだ!と先に立ってはみたものの、頂上へはリーダー先に行ってくれい!ええとこ撮ったるで!と(登って行く姿なので尻しか撮れませんが)頂上に至る ton ちゃんの写真を撮り、私もヨッコラショと山頂へ。

 

噂には聞いていたけど、山頂ではその場にいらした複数名の方の笑顔&拍手で迎えられて何とも気恥ずかしい。でも嬉しい♪無事に槍の頂上に立てました!嬉しいねぇ!!(シゲさんカムも一緒に来たよ!)

 

予想外に手間取り、山頂に到達した時間が12時なので、槍ヶ岳山荘前で大盛カレーの昼食&大休憩をとった後は、目的地を穂高からグッと手前に修正。22日夜からは天気が崩れて、明日23日の明け方まで雨になるという予報のため、今日は南岳小屋に泊まろうかと話しながら出発。穂高岳山荘のテン場はキャンセルに。

食べ過ぎたのか~お腹が重い!と南岳までのアップダウンでヘロヘロ。身体がとても重たい。
ストック使って腕も活用しながら大喰岳、中岳と進んで行くと、
先方から白い顔をした若者が登ってくる。あからさまに不安げな顔をしてキョロキョロしているので、どうした?と声をかけると、空腹であるという。腹減り…ですか。こんな所で。

格好も寒そうなのでとにかく何か身に着けなと重ね着をさせている間に、ton ちゃんが即湯を沸かしてスープとラーメンを用意。気持ち良い食いっぷりであっという間に吸い込み、食べている間に顔色も戻った感じで安心した。聞けば今日は沢山歩いたようで…、既に15時近くなっているというのに本日の目的地はかなり先の設定。食料不足の事も時間の事もあるし、槍ヶ岳山荘が良いと思うよと話し、ton ちゃんのおつまみを行動食にと握らせて別れる。
後程、ton ちゃんが小屋に確認したら、遅い時間ではあったけどその人は無事到着したとのことでホッとした。良かったよかった。

我々もスローペースながら南岳に到着。小屋は空いていて広々2階ロフト部分全部使って過ごせることに。本来5人用スペースなので荷物の整理が捗る。乾燥室で乾かせるだけ沢靴などを乾かし、ご飯を食べ、小屋に張り出されたバス・タクシー情報を確認し、明日のルートを調整。大キレットを越えて穂高、そして西穂まで……という当初の予定を貫くにはお天気が持ちそうにない。予報では、明け方まで雨。この雨がどの程度残るか分からないし、濡れた岩場を抜けていくリスクを考えると南岳新道を下りて新穂高温泉に出てしまうか、と。

ここも梯子、鎖の岩場続きだけどもかかる時間を考えたら、氷河公園コース(南岳→天狗池→槍沢→上高地)よりも短縮出来るし、何より中岳と南岳間の天狗コース分岐から見た激下りの尾根が手ごわそうで…それに比べれば、よし南岳新道を頑張ろう!と決めて就寝。

9月23日(水)晴れのち曇り
南岳小屋 − 氷河公園ルート – 天狗池 − 槍沢沿い歩き − 上高地

就寝したものの、夜中にかけてジワジワと頭痛が。
薬を飲もうと起き上がると、なんと ton ちゃんが起きている。
一度寝かけたけど、ふと、交通機関の事が気になり調べ始めてしまって眠れなくなったと。

なんと、連休が終わってバスは激減どころか無く、タクシーも事前予約必須らしい。私は南岳小屋に掲げられた時刻表だけ確認して「まぁ間に合うしょ」と楽天的に考えていたけど、その様な状態だったとは。新穂高側に下りたらどうなっていたやら…道路をひたすら歩き…??いや~! ton ちゃんの夜中の調べ物に感謝!南岳新道は止めて、少し予定より早めに起き、長いけども氷河公園ルートで確実にバスのある上高地に下りましょうと予定を変更。

再び寝に入ったものの、明け方4時頃になると私 imo、酷い咳が止まらなくなる。呼吸する度にザラザラゴロゴロと喘息症状時のような音が肺からするし、息を吸うと咽て咳込み、吐く時もせき込む。胃部不快感・頭痛・目が開いてますか?視界が狭いんですけど…という酷い浮腫み。
布団の中で顔を触ると、顔がゴム製か?というような感触。
これは…これはいわゆる高山病というやつでは??なるべく咳込まないように細く息をゆ~っくりと吐き、しっかり時間をかけて吸う事を心掛けるけども、脈打つ度に頭痛が頭痛が!大盛り上がりイタタタタ!困ったことに、横になっているだけなのに吐きそう。
何とか周囲が起き出すまで耐える。

幸いにも明け方にかけて雨という予報は外れ、朝から快晴。
快晴なのに、じゃあ当初の予定通り南下するか!と全く言える状態でない不調さに、体調も気持ちもズブズブ落ち込む。何か摂って動かねばと思うものの朝食は摂れず、ton ちゃんにお湯を沸かしてもらって少しばかり飲み、念の為に熱も測って(36.9)ふらふらと出発。テントは私の係だったけど、ポールとペグを持って貰う、ありがたい。

他の宿泊客から、大キレットが綺麗に見えるよ!などの周辺とっても絶景!な情報を頂くものの、飲んだ薬を吐き出さない事に必死過ぎて「それはそれは…」位しか応えられず。確かに小屋に差し込む日差しが明るく眩しい。そりゃ外も綺麗ジャろうて…だけど、写真を撮る元気など無い。

 

とにかく辛いので高度を下げたい。ヨボヨボとゆっくり、しかし必死に南岳まで登り返し、左右に雲海を眺めつつ、南岳と中岳の間にある分岐箇所から一気に下る。鎖が続き、一気に高度を下げ、梯子2つにゴロゴロ岩を丸印を外れないように降りていくと、そこそこなだらかに。

一気に下ってきたおかげで、酷く腫れていて視界の悪かった目も開いてきて、嘔吐感が収まり、何となくお腹も空いてきた。山と高原地図に「北穂の眺め良い」と記載されたあたりで小屋で買っておいたパンを食べる。とても景色が良くて、昨年登った北穂東稜も見えている。
今年はあそこに比べたら随分グレードアップしたような気がする…。
(アタックザックで数時間と今回を比べようも無いですが)



休憩しながら、来た道を見返すと、昨夜小屋でご一緒した高所が怖い慎重派なT原さんが恐る恐る下りて来るのが見える。無事を見守りながら更に下って、天狗池では学生さん達オススメの「ここから綺麗に見える!」ポイントで逆さ槍を撮影したり、ババ平や槍沢ロッジだのを通り過ぎながら、まだこんなに先が長いんかい!と地図を見て凹んだり、横尾でラーメン♪横尾でラーメン♪と朝方の不調が嘘のようにウキウキしながら横尾に着いたら食堂休業中の文字と遭遇したり……う、嘘でしょう?脳内にあのラーメンの絵面が浮かんでいたというのに…! ton ちゃん共々大いに士気が下り、その後は歩むペースもダウン。横尾の…ラーメン……(未練)。

 

具合が悪いというより、ラーメンにありつけない悲しさで倒れる

徳澤園の辺りでは、帰りのバスを最終より1本早められてしまうのでは?という微妙な時間になっていたものの、それでもソフトクリームを食べてしまったりして体を冷やしながらも、最後のひと頑張り!
あとバスターミナルまであと 100m からは文字通り駆け足気味になりつつも、最終1本前のバスに滑り込みました。

 

んんん長かった!!
そして、とてもとても楽しかった!
楽しいに尽きる4泊5日でした。
そもそもの天候判断・状況判断、沢登り、渡渉、岩登り、ルートファインディング、背負って動ける体力作り、自分の山スキルを総動員した感じでした。岩は岩で楽しいし、沢は沢で楽しいのだけれど、一度の山行で楽しい事いっぺんにやると、もっと楽しいじゃん!!と実感しました。

反省は勿論多々あり、水不足気味だったことや高所にもっと慣れておけば等ありますが、やってきた事(必死の体力作り等)が無駄じゃなかったと思えた事が私にとってはとても大きな収穫でした。
最後1日がしんどかったけど、いやー心底楽しかった!

ところで、この長いルートに松濤君が有元君と挑んだのは年末年始。
憧れルートと言うのであれば彼ら同様に積雪期を狙うべきでは、と思うものの、私にはとてもとても積雪期は難しく…除外せざるを得ず。当会の J.K 先輩は3月に踏破されていらっしゃるとのことで、嗚呼先人達よ偉大なり…と敬意を表して、長々北鎌記録を〆させて頂きます。

(まぁ、最後の最後、特急あずさ号の横揺れに耐えられずリバース祭りを開催したり、乗り継ぎの中央線が遅延して帰宅がかなり遅くなってしまうというおまけつきでしたが。それも含めて、大変に良い思い出。)

[メンバー] ton(L)、imo
[山行日] 2020.09.19(土) – 09.23(水)

written by:imo
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会員は相模原・厚木エリアを中心に、
町田、横浜、大和、座間、海老名、八王子に在住し、
様々な登山ジャンルで活動している地域山岳会です。

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